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たちばな台日記 〜スタッフブログ〜

2020年08月

「糖尿病と循環器疾患を考える会」

院長の山嵜です。

 

みなさんまだまだ酷暑が続いておりますが、いかがお過ごしでしょうか?

 

今回はオンライン講演会である「糖尿病と循環器疾患を考える会」にディスカッサーとして参加して参りました。

 

 

 

 

糖尿病と循環器疾患の関連は深く、私たちの日常診療におきましても糖尿病診療は非常に重要な立ち位置にあります。

 

どのように糖尿病の治療を行えば心血管イベントを抑制できるのか?これははるか昔からの課題です。

 

早期から厳しい血糖管理を行えばきっと予後は改善するだろうと言う当然の考えはACCORD試験(1)で残念ながら肯定されませんでした。しかし、血糖コントロールにおいて低血糖と体重増加が予後不良とする因子であることもこの試験では明らかになりました。

 

UKPDS(2)では早期から厳格な血糖管理を行う事で10年後には細小血管リスク低下は持続し,さらに心筋梗塞および全死亡のリスク低下も認められました。つまりこれまでの糖尿病治療法ではその予防効果が得られるまでに10年という歳月が必要だったわけです。

 

我が国では2016年4月より新しい糖尿病治療薬として「SGLT2阻害薬」が使用できるようになりました。

SGLT2阻害薬は余分な糖分を尿中に排泄することで血糖コントロールを行う薬です。

 

2015年に発表されたEMPAREG-OUTCOME試験(3)をはじめ、CANVASプログラム(4)、DECLAIRE-TIMI58(5)とSGLT2阻害薬が心血管イベントを有意に抑制したという大規模試験が次々に発表となりました。

そして驚くべきはそのスピードです。

これまでは糖尿病治療が効果を表すまで10年かかっていたのに対して、このSGLT2阻害薬による心血管イベントの抑制はなんと数か月です!

SGLT2阻害薬を用いた糖尿病治療により動脈硬化が抑制されてイベントが抑制されたとするとあまりに短すぎる期間です。

 

この事からSGLT2阻害薬による心血管イベント抑制はそれ以外の機序が働いている可能性が高いと考えられています。

 

現在以下に示すような作用機序が心血管に対して良好な影響を与えているのではないかと推測されております。

❶ ヘマトクリットの上昇

❷ NHE(Sodium hydrogen exchanger)の抑制作用

❸ 浸透圧利尿作用による体液量減少

❹ ケトン体産生による心筋エネルギー効率の改善

❺ 糸球体過剰濾過の改善

❻ 減量・降圧・血管伸展性改善による後負荷の軽減

❼ その他

 

また2019年に発表されたDAPA-HF試験では糖尿病の有無を問わない心機能が低下した心不全患者に対してSGLT2阻害薬を上乗せ使用し、心血管死や心不全の悪化を抑制したという結果が示されました。

この事はSGLT2阻害薬が糖尿病だけでなく心臓病治療薬としてのポテンシャルを有している可能性を示唆しています。

すでに海外ではSGLT2阻害薬の心不全に対する適応追加が承認されています。

 

 

まだ使用されてから日が浅いと言えるSGLT2阻害薬ですが、有効である患者様を見極め糖尿病早期から使用していくことで、糖尿病治療を行う循環器医にとっては非常に頼もしい薬剤となることと思われます。

 

(1)N Engl J Med 2008; 358: 2545-2559.

(2)N Engl J Med 2008; 359: 1577-1589.

(3)N Engl J Med 2015; 373: 2117-2128.

(4)Circulation 2018; 137: 323-334.

(5)N Engl J Med 2019; 380: 347-357.

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