2021年08月
エンレスト承認1周年記念講演会でお話をさせて頂きました
院長の山嵜です。
残暑が続いていますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
先週は夏季休暇を頂きました。コロナ禍の中の休診でご迷惑をおかけし申し訳ありません。
今年の夏季休暇は家にたまっていた小説とともに過ごしました。
また今週からしっかり診療させて頂いておりますので、なんなりとお気軽にご相談下さい。
さて、少し前になりますが7月30日に新しい心不全治療薬であるエンレストの記念講演会で講演をさせて頂きました。
心不全はステージA~Dに分類されます。
・ステージA:心不全の高リスク群であるが、器質的心疾患や心不全症状のないもの
・ステージB:器質的心疾患は認めるが、心不全症候はないもの
・ステージC:器質的心疾患があり過去現在に心不全症候のあるもの
・ステージD:治療抵抗性の心不全で何かしらの特別なインターベンションが必要なもの
通常心不全治療を開始するのはステージCからということになります。
ステージCの心不全に対する治療目標は大きく3つ
❶ 症状の改善
❷ 生活の質(QOL)の改善
❸ 入院予防・死亡回避
です。
時間的に分類すれば❶と❷は現在の状況を改善するための治療であり、❸は未来を見据えた治療ということになるでしょう。
今回の講演の主役であるエンレストは一般名をサクビトリル/バルサルタンといい、ネプリライシン阻害薬であるサクビトリルとARBであるバルサルタンを1:1で含有する薬剤です。
エンレストが一躍心不全治療の中心に躍り出た臨床試験が「PARADIGM-HF」試験です。
PARADIGM-HFは、NYHA Ⅱ 度以上の8,442名のHFrEF患者を対象にしたACE阻害薬に対するエンレストの有効性と安全性を検討した大規模臨床試験で、これまでその有効性を上回る薬剤のなかったエナラプリルとの比較において死亡や心不全入院のリスクを20%低下させたという結果を示した事でまさに心不全治療のパラダイムシフトとなった試験になりました。
PARADIGM-HF試験のサブ解析で、心不全患者の自覚症状や身体・社会活動度の評価となるKCCQスコアが検討されておりますが、エンレスト投与患者ではエナラプリルに比べて有意に自覚症状や身体活動の増悪を抑制することが示されました。
このKCCQスコアから算出した年齢の等価分析では、エンレストの使用は身体活動や社会活動においてエナラプリルに比べて9年分の若さをもたらしてくれる可能性があるということになります。
上記以外にもNT-pro BNPを早期から低下させる、運動耐容能を改善させるなどエンレストでは多岐にわたる有効性が報告されています。
以上のように
ステージCの心不全に対する治療目標
❶ 症状の改善
❷ 生活の質(QOL)の改善
❸ 入院予防・死亡回避
をすべて達成できる可能性のあるエンレストは新しい心不全治療薬の一つとして非常に期待される薬剤と考えることが出来るでしょう。
神奈川KAMPOネットワーク
院長の山嵜です。
7月27日神奈川KAMPOネットワークで漢方薬の講演をさせて頂きました。
今回お話しさせて頂いたテーマは
「心悸亢進に対する次の一手 ~柴胡加竜骨牡蛎湯の有用性~」です。
動悸で受診する患者様は多くいらっしゃいますが、大きく
・心原性
・非心原性
に分類されます。
心原性は不整脈や器質的心疾患を原因とするもので、多くは長時間心電図や心エコー検査で診断をつけることが出来ます。
また非心原性は発熱、脱水、甲状腺機能亢進症、薬物、貧血、心因性など多様な全身性疾患の鑑別が必要です。
柴胡加竜骨牡蛎湯は柴胡剤として比較的体力のある方の少陽病期に使用される方剤で、大型哺乳動物の化石化した骨である竜骨や、牡蠣の殻である牡蛎を生薬として含むことから精神的な安定をもたらすことのできる薬剤です。
特に「胸脇苦満」という肋骨の下を圧迫すると不快感を自覚される方や、「臍上悸」という臍の上に手を当てると腹部大動脈の拍動を感じる方には非常に有効です。
循環器科で検査をしたけれど原因のわからない動悸や、医師からは大丈夫と言われたけれど動悸の症状が続いている方がいらっしゃいましたら漢方薬も一つの有用な手段になるかもしれません。
そんな方は是非お気軽にご相談を頂ければと思います。