2021年12月
STOP!! CKD 心腎貧血症候群を考える
今年最後の講演は
STOP!! CKDということで「心腎貧血症候群を考える ~循環器におけるCKD管理の重要性~」をテーマにお話をさせて頂きました。
心血管疾患と慢性腎臓病は非常に関連が強く、それぞれがもう一方の疾患の発症や増悪のリスク因子となることから、両者の関係は「心腎連関」として知られています。
心不全と慢性腎臓病の悪循環のループには様々な因子が存在しますが、両者をつなぐキーとなっているのが貧血です。
そこで心腎連関にこの貧血を加えた3者の関係を「心腎貧血症候群」と呼んでいます。
病態が複雑な心不全、そして慢性腎臓病に対して、比較的治療介入しやすい貧血を改善することで各疾患の悪循環を断ち切ろうという事から、貧血には注目が集まっていると考えられます。
心不全退院後患者を対象としたJCARE-CARD試験(Circ J 2009; 73: 1901–1908)でもヘモグロビン値 男性<13.0、女性<12.0g/dlを貧血と定義した際、心不全患者の57%に貧血が存在することが明らかとなりました。
また、ヘモグロビン値により4群に分類した際、ヘモグロビンが低値になるほど全死亡と心不全入院の発生率が増加することが示されています。
同様にRENAAL試験のサブ解析(Kidney International, Vol. 66 (2004), pp. 1131–1138)でも慢性腎臓病患者をヘモグロビン値で4群に分類した際に、ヘモグロビン値が低値の群ほど末期腎不全への進展が高率である事が示されました。
つまり貧血の存在は心不全、慢性腎臓病の増悪因子である事が明らかにされているわけです。
慢性腎臓病における貧血というとエリスロポエチンが不足することにより発症する「腎性貧血」が頭に浮かびますが、実は鉄欠乏性貧血の罹患率も高く、血液検査から診断した3つの試験から15~28.4%存在することが知られています(Am J Kidney Dis. 2010; 55: 719-723, J Nephrol 2006; 19: 161-167, Nephrology 2015; 20: 601-608)。
慢性腎臓病患者の貧血に対する治療フローチャートをお示しします(山嵜 作図)。
まずは重要なのは鉄動態の評価です。
❶ TSAT(%):血清鉄/総鉄結合能(TIBC)×100 → 血液中の鉄を評価
❷ フェリチン → 貯蔵鉄を評価
〇 TSAT<20%、フェリチン<100μg/L → 絶対的鉄欠乏
〇 TSAT<20%、フェリチン>100μg/L → 相対的鉄欠乏
絶対的鉄欠乏の際は、鉄補充の開始基準となります。
一方相対的鉄欠乏の際は、鉄利用障害が存在する可能性があるため、背景に感染や慢性炎症が存在しないか精査が必要です。腎性貧血の際にも鉄利用障害のパターンを呈しますので、明らかな原因が存在しない時にはESAやHIF-PH阻害薬の投与が必要となります。
腎性貧血につきましてはまた改めましてブログで書かせて頂きたいと思います。
今年も一年間たちばな台クリニックを支えて頂きましてありがとうございました。
新型コロナウイルスも再流行の兆しを見せ始めており、まだまだ辛抱の日が続くことになりそうですが、皆様の身体と心の祈念しております。
それではどうぞ良いお年をお迎えください。
来年も何卒よろしくお願い申し上げます。
ARNI National Symposium 心不全超早期ステージにおけるエンレストの可能性
院長の山嵜です。
少し前になりますが10月28日のARNI National Symposiumで講演をさせて頂きました。
今回のテーマは「心不全超早期ステージにおけるエンレストの可能性」です。
心不全は
ステージA:高血圧や糖尿病などの心不全のリスクとなる疾患を有するリスクステージ
ステージB:器質的心疾患を有するリスクステージ
ステージC:症状を有する心不全もしくは心不全の既往を有する心不全ステージ
ステージD:治療抵抗性の重症心不全ステージ
の4ステージに分類されます。
心不全のリスクステージ別生存率ではステージBとCの間で生命予後に大きな差があり、心不全を発症する以前に介入をすることが非常に重要であることが示唆されます。
高血圧症は最も罹患患者の多い疾患であり、心不全のリスク因子であることが知られています。
また高血圧患者に降圧療法を行った48の臨床試験のメタ解析では、収縮期血圧を5mmHg低下させると心不全の発症を13%減少させることが出来ることが報告されています(Lancet 2021; 397: 1625–36)。
2021年9月より心不全治療薬であるARNI サクビトリルバルサルタン(エンレストⓇ)が「高血圧症」の適応を取得しました。
こちらはサクビトリルバルサルタンの国内第Ⅲ相臨床試験で、ARBであるオルメサルタン20mgとサクビトリルバルサルタン400mg投与患者における24時間収縮期血圧の推移を表したグラフです。
オルメサルタン群に比べてサクビトリルバルサルタンでは日中活動時の血圧および夜間血圧を良好に低下させることが出来ています。
日中血圧の低下は交感神経活動の抑制、夜間血圧の低下はナトリウム利尿に伴うサクビトリルバルサルタンの効果ではないかと考えております。
またサクビトリルバルサルタンではオルメサルタンに比べて左室心筋重量係数を有意に低下させました。
高血圧患者における左室肥大の存在は心不全発症のリスク因子であり、治療による左室肥大の退縮は心血管イベントの発生を減少させることが知られています。
以上より高血圧に対する超早期ステージからの適切な治療介入は心不全発症を抑制し、患者様の予後を改善させる可能性があり、確実な降圧効果と左室肥大抑制効果を有するサクビトリルバルサルタンには大きな期待が持てるのではないかと考えております。
日々寒くなり血圧も上昇しやすい時期ですが、高血圧が気になる方、また降圧薬を内服しているがなかなか十分なコントロールが得られない方はいつでも当院までお気軽にご相談下さい。