2022年10月
未来を見据えた糖尿病治療
本日も少し前の講演会のご報告です。
9月28日に「循環器からみた糖尿病治療WEBセミナー」におきまして
「未来を見据えた糖尿病治療 ~私たちが選ぶべき治療戦略とは?~」
というテーマでお話をさせて頂きました。
世界には5億3660万人の成人糖尿病患者が存在すると言われています。これは世界の人口のおよそ10分の1にあたります。
日本における糖尿病患者数は1,100万人と推定されており、世界でも9位にランキングされております。
また糖尿病関連死は24万5,010人と推定されており、この事からも日本の医療にとって糖尿病は非常に重要な疾患であることがお分かりいただけるかと思います。
糖尿病患者では非糖尿病に比べ平均寿命が短いことが報告されています。
全死亡、心疾患による死亡、そして虚血性心疾患による死亡も、性別・年齢を問わず高率になっています。
では糖尿病においてはじめて出現する心血管腎イベントは何か?
心腎血管疾患を有さない2型糖尿病患者772,336例を平均4.5年間追跡したデータがこちらになります。
糖尿病というと虚血性心疾患との関連が容易に思い浮かびますが、意外にも初発のイベントは圧倒的にCKDと心不全が多数であることが明らかとなりました。
心血管腎イベントを有さない糖尿病患者に比べて、心不全とCKDを合併する糖尿病患者における全死亡のハザード比は3.14と非常に高値であり、心不全とCKDが合併した糖尿病は予後が非常に不良であることも報告されています。
心・腎・糖尿病という3つの病態はそれぞれの病態の増悪因子となっており、深い関係を有する事から、近年「心腎代謝連関」という概念が用いられるようになりました。
これからの糖尿病治療においては、いかに心不全とCKDの発症を抑えることが出来るかという点が非常に重要であり、米国糖尿病学会のガイドラインもこの点を考慮した治療アルゴリズムを示しています。
各薬剤についての詳細はまたの機会に是非綴らせて頂きたいと思いますが、新たな治療薬の登場により糖尿病治療が大きく変わったことは間違いありません。
ただし、新しい治療薬が万能なわけでもありません。
多くの薬剤の特徴を理解し、患者様個々の病態に適した治療 つまりpatient oriented approachを行う事。この事を忘れずにこれからも日々の診療を行っていきたいと思います。
糖尿病の薬物治療 ~次の一手は何を選択しますか?~
院長の山嵜です。
忙しい日が続き久しぶりのブログ更新となってしまいました。
もう1か月以上前になりますが9月15日に開催されました糖尿病の講演会にディスカッサントとして参加してまいりました。
はじめに横浜市立大学附属市民総合医療センター 山川先生から「合併症を考慮した2型糖尿病の薬物治療アルゴリズム」というテーマでご講演がありました。
今注目されているGLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬の有用性や使用する際のポイント。
そして、ご自身の病院で使用されている体重を考慮した治療アルゴリズムについてお話を頂きました。
そして後半は
「血糖値をよくしたい気持ちと日常生活のジレンマを考慮した薬物治療」
というテーマでディスカッションを行いました。
【症例 〇〇代 女性】
・BMI:23.4kg/m2
・最近数回のHbA1Cは8台
・経口血糖降下薬2剤を服用中(DPP4阻害薬、ビグアナイト薬)
このような患者様に対する次の一手をどうするかについてのディスカッションです。
Q1.このような患者様の薬物治療において、治療のモチベーションや治療継続に最もつながる要素は何でしょうか? ①~④より、1つだけ選択してください。
① 早期に効果が実感できる。
② 安全性・忍容性
③ アドヒアランス
④ 生活リズムを変えない
皆さんならどうお考えでしょうか?
もちろんすべての項目が大切です。
これまでお薬で治療を続けてきて、自分では頑張っているけれどなかなか血糖のコントロールが出来ず目標に届かない。
こういった患者様では心も折れかけているかもしれません。
そのような背景を考慮すると、あえて一つを選択するとすれば「① 早期に効果が実感できる」でしょうか。
効果が実感できることで、気持ちも軽くなり、さらに継続して頑張ってみようというモチベーションにつながることも期待できるのではないでしょうか。
さて次の設問です。
Q2.このような患者様の3剤目に、どの薬剤を選びますか?
①~⑧より、1つだけ選択してください。
① SU薬
② グリニド薬
③ αグルコシダーゼ阻害薬
④ SGLT2阻害薬
⑤ その他の経口血糖降下薬
⑥ GLP-1受容体作動薬
⑦ インスリン/GLP-1RA配合薬
⑧ インスリン製剤
さていかがでしょうか?
患者様の情報が少ない中での選択なので難しいかもしれません。
BMI23.4kg/m2ということで体重減少やるい痩は見られていません。
合併症として高血圧や脂質異常症などの冠危険因子があるか、心不全や慢性腎臓病を認めているか、この辺りは治療薬の選択において非常に重要なポイントになってくるかと思います。
膵臓保護の観点からはSU薬はまだ使用を控えたい、また体重増加の懸念からインスリン製剤も控えると思います。
頑張っているのに体重がなかなかコントロールできないのであればSGLT2阻害薬もしくはGLP-1受容体作動薬を選択します。両薬剤とも心血管イベントおよび腎イベントの発生予防に対するエビデンスが豊富であり、SGLT2阻害薬であれば糖排泄増加、GLP-1受容体作動薬であれば食欲や消化管活動抑制などによる体重減少効果も期待できます。
SGLT2阻害薬を追加してDPP4阻害薬との合剤にすることで薬剤量が増えないようにするのもいい選択かと思います。
GLP-1受容体作動薬は週に1回の注射で済むのも評価できる点であり、また経口薬も使用する事が出来るようになったことは汎用性も広がったと言えるでしょう。
このように私たちが血糖降下薬を使用する際には個々の患者様にどの薬剤が適しているかを細かく考慮しています。
今の薬で良いのかどうか疑問に思う事があればいつでも気軽にご相談いただければと思います。
今回は糖尿病専門医の先生方の中で唯一循環器内科医としてディスカッションに参加させて頂き、先生方のご意見も拝聴し大変勉強になりました。
循環器疾患と糖尿病は切っても切り離すことのできない深い関係を有しています。
これからも一人一人の患者様に適した治療方針を提供できるよう努めていきたいと思います。