2025年07月
HPVワクチンについて知ってください。正しい知識と理解のために。 たちばな台クリニック小児科 秋谷 進
HPVワクチンについて知ってください 正しい知識と理解のために
若い女性の間で子宮頸がんにかかる方が増えていますが、子宮頸がんの原因の多くはヒトパピローマウイルス(HPV)というありふれたウイルスです。HPVワクチンには、HPV感染を防ぎ、子宮頸がんなどの病気を予防する効果が期待されています。日本では一時期、HPVワクチンの積極的な接種勧奨が控えられ、接種率は低いままの状態です。
この記事では、HPVワクチンの効果や安全性、世界の状況などを分かりやすく解説し、大切な人を守るための情報を提供します。正しい知識を得て、ワクチン接種について考えてみませんか。
1.はじめに:HPVと子宮頸がんについて知ろう
①HPVとは?
HPVと略されるヒトパピローマウイルスは、性的接触経験のある女性の半数以上が生涯で一度は感染すると言われるほど、ありふれたウイルスです。多くの型があり、一部の型は子宮頸がんだけでなく、肛門がんや中咽頭がん、良性のいぼである尖圭コンジローマなど、様々な病気の原因となります。近年、特に若い世代の女性で、子宮頸がんにかかる方が増えています。
②子宮頸がんの現状
日本で子宮頸がんにかかる女性は毎年約1.1万人、そのうち命を落としてしまうのは約2,900人と言われています。罹患者数は特に20代から増加し始め、30代までに治療のために子宮を失う(妊娠できなくなる)ケースも少なくありません。早期発見・早期治療が重要ですが、予防できる手段があることも知っておく必要があります。
③HPVワクチンとは?その効果
HPVワクチンは、子宮頸がんそのものを予防する効果はまだ確認されていません。確認されているのは前がん病変を予防する効果ですが、ワクチン接種で、将来的な子宮頸がんの予防効果が期待されています。感染前に接種するのが最良で、定期接種の対象者は公費(無料)で接種できます。
④ワクチンの種類と効果
HPVワクチンは、HPV感染を防ぐためのワクチンです。日本では、小学校6年生から高校1年生までの女子が定期接種の対象者になっています。ワクチンは、2価・4価・9価の3種類です。
2価・4価のワクチンは多くの子宮頸がんの原因になっているHPV16型・18型の感染を防ぎ、子宮頸がんの約50~70%を予防します。9価ワクチンは、別のタイプへの感染も防ぐため、約80~90%の子宮頸がんを防げます。
⑤なぜ若いうちの接種が効果的なのか?
HPVワクチンは、感染する前に接種するのが冒頭のキャッチアップ画像にあるように最も効果的です。性交経験前の年齢(16歳頃まで)の接種が推奨されています。しかし、それ以上でも、性交経験があっても、まだ感染していないHPV型への感染を予防したり、新たな感染を防いだりする効果は期待できるため、接種する価値はあります。
⑥接種スケジュール
HPVワクチンは、一定の間隔をあけて、同じワクチンを合計2回または3回接種する必要があります。接種するワクチンの種類や、1回目接種時の年齢によって、接種時期や回数は異なります。ワクチンの種類と接種タイミングは、以下のとおりです(表1)。
表1.ワクチンの種類、接種年齢、回数とスケジュール
ワクチンの種類と接種タイミング |
接種回数 |
接種スケジュール |
|
2価ワクチン(ガーダシル) |
3回 |
2回目は1回目の1か月後、3回目は1回目の6か月後。 |
|
4価ワクチン(サーバリックス) |
3回 |
2回目は1回目の2か月後、3回目は6か月後。 |
|
9価ワクチン (シルガード9) |
1回目を15歳になるまでに受けるとき |
2回 |
1回目と2回目の接種は、少なくとも5か月以上 |
1回目を15歳になってから受けるとき |
3回 |
2回目は1回目の2か月後、3回目は6か月後。 |
どのワクチンを接種するかの詳細は、接種を希望する医療機関に問い合わせてください。3種類いずれのワクチンも、1年以内に規定回数を終了させるのが望ましいとされています。
2.日本と世界の接種状況:みんなで打つことの意味
日本の接種率はまだ低い水準ですが、諸外国では8割以上になっているところもあります。集団免疫があると、接種できない人や効果が十分でない人も感染から守られます。
①日本の現状
日本では、HPVワクチンは2013年4月に定期接種となりましたが、その2か月後から約8年間、副反応への懸念などから積極的な接種勧奨が差し控えられました。この期間、接種率は1%未満にまで落ち込みました。2022年度から積極的勧奨は再開され、接種率は上昇しつつありますが、まだ低い水準です。
接種勧奨が差し控えられていた期間に接種機会を逃した方々(1997年度~2005年度生まれの女性)のために、公費で接種を受けられるキャッチアップ接種制度がおこなわれています。2025年3月末までにHPVワクチンを1回以上接種した該当者で、公費による接種を希望する場合は、2026年3月末まで2回目・3回目の接種を検討できます。
2023年4~9月の日本における初回接種率は39.9%、2回接種率は12.8%と、米国の初回接種率(2022年、77.8%)などと比較しても低い状況です。
②海外の状況
HPVワクチンはWHO加盟国194か国のうち137か国で、公的予防接種の対象となっており(2024年1月時点)、そのうちアメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリアなどを含む59か国においては男性も接種対象となっています。カナダやオーストラリアなどでは、国の積極的な取り組みにより、接種率は8割以上に達しています。
③集団免疫:「社会を守る」効果
予防接種には、接種した「個人を守る」効果だけでなく、感染症の流行そのものを抑えることで「社会全体を守る」という大切な役割があります。多くがワクチンを接種すると、社会全体でHPV流行を抑えられます。これが「集団免疫効果」です。集団免疫効果があると、ワクチンを接種できない人や、接種しても十分な免疫が得られない人も、HPV感染から間接的に守られることにつながるのです。
3.男性へのHPVワクチン接種について
男性もHPVワクチンを接種して、集団免疫を高める意識は必要です。
男性接種の意義とは
男性がHPVワクチンを接種すると、肛門がんや中咽頭がん、尖圭コンジローマなどのHPV関連疾患から自身を守るだけでなく、パートナーへの感染を防ぐ効果も期待でき、男女ともに接種することで、より高い集団免疫効果が得られます。
現在、男性のHPVワクチン接種は任意接種(自費)で、公費助成の対象外です。3回の接種で約5~6万円程度の自己負担が必要ですが、一部の自治体では独自に助成制度を設けている場合があります。詳しくはお住まいの自治体にお問い合わせください。
4.ワクチンの安全性と副反応について
ワクチン接種後には接種部位の痛みや腫れ、赤みなどが起こることがありますが、病気になったり障害が残ったりした場合には、予防接種法に基づく救済制度が適用されます。
①安全性に関する情報
接種後には、他のワクチンと同様に、接種部位の痛みや腫れ、赤みなどが起こることがあります。まれに、アナフィラキシーなどの重いアレルギー症状や、ギラン・バレー症候群などの神経系の症状が起こることが報告されています。以前、接種後に「広範な痛みや運動障害」などが報告されましたが、その後の詳細な調査で、同様の症状はHPVワクチン未接種の同年代の方にもみられることが分かり、現時点ではワクチン接種との因果関係は否定的とされています。ただし、ワクチンの接種後やけがの後などに原因不明の痛みが続いた経験のある方は、これらの状態が起きる可能性も考慮し、接種については医師とよくご相談ください。ワクチンの安全性については、継続的に調査・確認が行われています。
②副作用被害救済制度
予防接種によって健康被害(病気になったり障害が残ったりすること)が起きた場合には、予防接種法に基づく救済制度の適用を受けます。HPVワクチンに限らず、日本で承認されている全てのワクチンが対象で、予防接種と健康被害との因果関係が認定された場合に、医療費や障害年金などが給付されます。万が一、ワクチン接種後に気になる症状が現れた場合は、まずは接種した医療機関にご相談ください。
5.HPVワクチン接種のまとめ:自分と周りの人を守るために
HPVワクチンは、子宮頸がんなどのがんや尖圭コンジローマといったHPV感染による病気を予防するための効果的な手段の一つです。特に、HPVに感染する可能性が低い若いうちに接種すると、より高い予防効果が期待できます。多くの人が接種することで集団免疫効果が高まり、社会全体を感染症から守ることにもつながります。男性の接種も、本人とパートナー、社会全体の健康を守る上で重要です。
ワクチンの効果や副反応について正しい情報を知り、不安な点があれば医師に相談した上で、接種については、自分自身で判断することが大切です。「個人の予防」が「社会全体の健康」へとつながることを理解し、行動していきましょう。
参考までに日本小児科学会の推奨する予防接種スケジュール2025年4月版を簡易にしたものを掲載します。
参考文献:
1.厚生労働省. ヒトパピローマウイルス感染症~子宮頸がん(子宮けいがん)とHPVワクチン~. https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/index.html
2.厚生労働省. HPVワクチンについて知ってください 子宮頸がん予防の最前線. https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou_kouhou/kouhou_shuppan/magazine/202205_00001.html
3.厚生労働省. ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンのキャッチアップ接種について. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/hpv_catch-up-vaccination.html
4.東京都.初めてのHPVワクチン. https://www.vaccine.metro.tokyo.lg.jp/
5.河内長野市.男性へのHPVワクチン接種費用の助成について. https://www.city.kawachinagano.lg.jp/soshiki/8/107186.html
6. 国際セクシュアリティ教育ガイダンスに基づくレベル・年齢ごとの性教育目標.https://unesdoc.unesco.org/ark:/48223/pf0000374167
たちばな台クリニック小児科 秋谷 進 2025年07月01日
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秋谷進.朝日新聞 先生コネクト.【子どもを診まもる】子宮頸がんから子どもの未来を守るHPVワクチンを知ってください.
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