慢性腎臓病に対する新たなアプローチ
院長の山嵜です。
昨日在宅診療の先生方を対象に「慢性腎臓病に対する新たなアプローチ」というテーマで講演をさせて頂きました。
慢性腎臓病(CKD)は我が国に1330万人存在すると言われている国民病で、高齢化に伴いさらに増加することが予想されます。
CKDは進行すれば末期腎不全として透析導入となりますが、それ以外にも心血管疾患の大きなリスク因子と考えられています。そのため早期からCKDに介入し透析導入や心血管疾患の発症を予防することが大切となります。
糸球体高血圧とそれに伴う過剰濾過は腎機能障害の重要な機序の一つです。
高血圧や、高蛋白食、輸入細動脈の拡張と輸出細動脈の収縮は糸球体高血圧の原因となります。
レニンアンジオテンシンアルドステロン系の亢進はアンジオテンシンⅡを介して輸出細動脈の収縮を招き、糸球体高血圧を惹起します。
そのためACE阻害薬やARBなどのRAAS阻害薬は輸出細動脈を拡張させることで糸球体高血圧を改善させ、腎機能を保護することになります。
2001年にロサルタンが糖尿病性腎症を伴う2型糖尿病に対して腎保護作用を有することがRENAAL studyで示されました。
それから20年、SGLT2阻害薬であるダパグリフロジンが慢性腎臓病の進展を抑制する効果を有する薬剤として使用可能となりました。
尿中アルブミンを認めるCKD患者に対するダパグリフロジンの安全性と有効性を評価した第三相臨床試験「DAPA-CKD」ではGFRの低下、末期腎不全への進展、心血管死、腎臓死の主要複合エンドポイントをプラセボに比べて有意に減少させることが証明されました。
SGLT2阻害薬の腎臓に対する保護効果の機序として「尿細管糸球体フィードバック機構の改善」が考えられています。
近位尿細管に存在するNa/GluトランスポーターであるSGLT2を阻害することによりナトリウムとグルコースの再吸収を抑制。ナトリウムが遠位尿細管に十分到達することでマクラデンサではNaCl濃度を感知し、拡張していた輸入細動脈を収縮。その結果糸球体高血圧が改善し、長期的に腎機能を保護することになります。
高齢化に伴うさらに増加することが予測されるCKD。
SGLT2阻害薬という新たな機序の腎保護薬が登場したことにより、腎機能障害の管理は新たなステージに入ったと言えるかもしれません。