心腎貧血症候群WEBセミナー ~今見直される鉄欠乏の重要性~
今回は前回でも予告いたしましたように、鉄欠乏の重要性についてお話をしたいと思います。
11月1日に心腎貧血症候群WEBセミナーで鉄欠乏の重要性について講演をさせて頂きました。
生体内に存在する金属元素のうち最も多く存在するのが鉄です。
鉄は体内に約3g存在すると言われていますが、その6割は血液中のヘモグロビンの構成成分となり酸素運搬という重要な役割を果たしています。
鉄欠乏には2種類存在します。
① 絶対的鉄欠乏
② 機能的鉄欠乏
鉄欠乏を評価する上で重要な項目も2つ。
1)トランスフェリン飽和度(TSAT):血清鉄/総鉄結合能(TIBC)×100(%)
:血液を産生するために働くことのできる鉄の実働部隊と考えられます。
お金で例えるとすぐに使えるようにお財布に入っているお金と考えると良いでしょう。
2)血清フェリチン値
:肝臓などの網内系に蓄積している鉄の貯蔵量を反映しています。
お金で例えると銀行に貯金しているお金と考えると良いでしょう。
それでは2種類の鉄欠乏について
① 絶対的鉄欠乏
消化管出血などによる喪失や鉄摂取不足、吸収不良により体内の鉄絶対量が不足している状態を絶対的鉄欠乏と呼びます。
TSATは20%未満、血清フェリチン値は12-15μg/L未満、 炎症を伴っている患者で50μg/L未満(もしくはそれ以上)で鉄欠乏の診断基準と設定しています。
しかし慢性腎臓病や心不全は慢性炎症状態と考えられるため
血清フェリチン値<100μg/L, 血清フェリチン値100~300μg/Lの時はTSAT<20%で鉄欠乏と判断し鉄補充療法を検討することが推奨されています。
② 機能性鉄欠乏
急性・慢性炎症、感染症、悪性腫瘍などの病態では炎症性サイトカイン産生を介して肝臓でのヘプシジン合成が促進されます。ヘプシジンは腸管における鉄吸収や網内系細胞からの鉄放出を抑制する作用を有するため、上記の病態では鉄は網内系細胞内にとどまり鉄利用能が低下します。
そのため血清フェリチン値は増加し、実働部隊であるTSATは低値を示すことになります。
このような病態では体内における鉄の絶対量は充足しているため鉄補充は推奨されません。
以上のように鉄欠乏の評価、鑑別にはTSATと血清フェリチン値の両指標を必ず評価する必要があります。
慢性腎臓病、心不全には鉄欠乏の合併が多いことが知られています。
また鉄欠乏と言えば鉄欠乏性貧血が有名ですが、貧血を呈していなくとも鉄欠乏が存在するだけで運動耐容能の低下や心不全の再入院率の増加をきたすことが知られています。
以上のように心不全に高率に合併する鉄欠乏を見逃すことなく診断、必要があれば鉄補充療法を検討する事が必要であり、鉄欠乏の心不全に対する鉄補充療法の有効性も下記に示すように報告されています。
鉄欠乏性貧血の治療はまず原因の精査とTSAT、血清フェリチン値の評価。
その後はまずは経口鉄剤から治療を開始。
経口鉄剤を開始すると便が黒くなります。また副作用として胃腸症状をきたすことがあることをしっかりと説明しておくことが重要です。
鉄剤には二価鉄を用いた製剤と三価鉄を用いた製剤があります。
吸収は二価鉄の方が良好と言われていますが、消化器症状は三価鉄の方が少ないため、鉄剤開始後吐き気などを認める時は三価鉄製剤の使用を検討するといいかもしれません。
(第一鉄→二価鉄、第二鉄→三価鉄)
以上鉄に関してお話をさせて頂きました。
体内に3gしか存在しない鉄がこれだけ重要な働きをしていることに正直驚かされます。
普段からバランスのとれた食事をすることも重要ですが、健診で貧血を指摘された方や、慢性腎臓病、心不全、その他疾患をお持ちの方で不安をお持ちの方は是非お気軽にご相談ください。