学会・研究会
ここから始める! ”不眠症”に対する漢方薬3選
院長の山嵜です。
5月16日に開催されました「WEBで伝える漢方 ~明日から使える漢方の使い分け~」という講演会で
「ここから始める! ”不眠症”に対する漢方薬3選」というテーマでお話を致しました。
10歳以上の日本人の平均睡眠時間は7時間54分で、世界最短レベルの睡眠時間として知られています。
さらに日中の生活に支障をきたす睡眠困難が3カ月以上持続する「慢性不眠症」は国民の10%とも言われています。
不眠症には生活習慣や睡眠習慣の改善が最も重要な対策とされておりますが、それでも持続する際には薬物治療も検討されます。
現在使用されている睡眠薬は大きく3つに分類されます
❶ GABA-A受容体作動薬
❷ オレキシン受容体拮抗薬
❸ メラトニン受容体作動薬
20~74歳の一般人口におけるこれらの薬剤処方率は4.7%とされておりますが、アンケート調査によりますと睡眠薬内服中の患者様の4分の3は出来ることなら減量・中止を希望しているとの回答でした。
不眠症に対して初めから睡眠薬を使用しないで治療をすることが出来ないか?また現在内服している睡眠薬を減量中止していくことが出来ないか?
そんな時に私たちが持っておきたい一手が漢方薬の使用です。
本講演では3つの代表的な漢方薬を御紹介させて頂きました。
❶ 「疲れきっているのに眠れません」
体力が低下したそんな方には・・・
❷ 「イライラしてしまって眠れません」
興奮しやすく怒りっぽい、そんな方には・・・
❸ 「ストレスや不安で過敏になって眠れません。動悸もします。」
体力はあるが、ストレスで神経過敏になっている、そんな方には・・・
睡眠の質を高める漢方薬はたくさんありますが、それぞれの患者様の特徴をよく理解し、全身の所見を注意深く診察する事で、西洋薬とは異なる効果が期待できます。
不眠症でお悩みの方や、睡眠薬を使用しているが出来れば減量したいと考えている方はぜひ漢方薬もお試していただければと思いますので、当院までお気軽にご相談ください。
第120回 日本内科学会総会
院長の山嵜です。
少し前の話になりますが、2023年4月14日から4月16日まで東京国際フォーラムで開催されました
第120回日本内科学会総会・講演会で発表の機会をいただきました。
今回は
「コントロール不良高血圧患者に対するサクビトリルバルサルタンの有用性」
というテーマでの発表です。
現在日本には約4300万人の高血圧患者が存在すると言われておりますが、高血圧治療を受けている方のなかで目標血圧を達成できている患者様は約3割程度とされているのが現状です。
サクビトリルバルサルタンはネプリライシン阻害作用を有するサクビトリルとアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬であるバルサルタンの複合体で、レニンアンジオテンシンアルドステロン系の阻害とナトリウム利尿ペプチド系の増強という二つの効果を併せ持つ薬剤です。慢性心不全に対して使用されていたサクビトリルバルサルタンはその強力な降圧作用から高血圧診療に対しても非常に期待されています。
そこでアジルサルタンからサクビトリルバルサルタンに変更を行った際の血圧の変化について検討を行いました。
試験デザインの詳細は控えさせていただきますが、主要評価項目であります収縮期血圧・拡張期血圧・脈圧はいずれも有意な低下を認め、サクビトリルバルサルタンの有効性が示されました。
日本人に多く見られる食塩感受性高血圧に対してもNa利尿をはじめとする多彩な作用を有する事からその有効性が認められるサクビトリルバルサルタンですが、既存の降圧薬で目標未達成の高血圧患者様に対しても強力な一手となることが期待されます。
日本循環器学会学術集会に参加してきました。
第87回日本循環器学会学術集会が福岡で開催されました。
久しぶりの現地開催で約15,000人の医療従事者が参加するという大きな学会となりました。
今回は高血圧のセッションにおきまして
「Efficacy of Sacubitril/Valsartan in Patients with Poorly Controlled Hypertension」
という演題で発表をさせて頂きました。
現地開催という事でたくさんの先生方と顔をあわせてのディスカッションをすることが出来、大変有意義な学会となりました。
学んだ最新の知識を日々の診療でしっかりと生かしより良い治療が行えるよう、今後も精進していきたいと思います。
ARNI 全国WEB講演会でお話をさせて頂きました
1月26日にARNIランチタイムセミナー ~厳格降圧で帰る日本の未来~で講演をさせて頂きました。
テーマは「日本人高血圧を考える ~エンレストがもたらす新たな高血圧治療戦略~」
高血圧は最大の心血管疾患リスク因子である。
2019年に日本高血圧ガイドラインが改訂され75歳未満の診察室血圧は130/80mmHg未満が推奨されております。
しかし降圧治療を行っているにもかかわらずこの目標値を達成できていない方は約7割とも推察されています。
その原因となるのは?
それを改善するための治療戦略は?
などについてお話をさせて頂きました。
2月14日まではオンデマンドで配信しておりますので、是非ご覧いただければと思います。
https://quick-watch.jp/minerva/web_ondemand/O00847.html
Yokohama Brain Conference
院長の山嵜です。
最強寒波の極寒の中皆様いかがお過ごしでしょうか。
本日は12月15日脳神経外科の先生を対象に開催されましたYokohama Brain Conferenceについてお話をさせて頂きたいと思います。
こちらの会では大変お世話になっております横濱もえぎ野クリニックの泉山先生にお声掛けを頂き
「高血圧診療Update ~ARNIがもたらす新たな高血圧治療戦略~」
というテーマで講演をさせて頂きました。
「高血圧は脳卒中および心血管イベントの最大のリスク因子である。」
これがkey wordになります。
下の図は日本においてどのようなリスク因子が脳心血管死に関与しているのかを表したグラフになりますが、圧倒的に高血圧の関与が強く、高血圧関連脳心血管死は年間約10万人におよぶと考えられております。
ではどの程度に血圧をコントロールすれば脳卒中イベントは減少するのか?
高齢であれば血圧は高くても良いのではと考えられていた時代もございましたが、現在は75歳未満の方や高度狭窄を有さない脳血管疾患の方、冠動脈疾患の既往のある方、糖尿病の方、蛋白尿を有する慢性腎臓病の方では診察室血圧を120台にコントロールする事が高血圧ガイドライン2019でも推奨されております。
下は血圧を130を目標に治療をした方と、140を目標に治療を行った方の脳卒中イベントを評価したメタ解析になりますが、130を目標に厳格に高血圧の治療を行った群で22%脳卒中の発症リスクが低下する事が示されております。
血圧には日内変動があり、早朝高血圧が心血管イベントのリスク因子であることが知られています。
脳卒中発症にも日内変動があり、下記の2つの試験結果からも脳卒中の発症は朝から午前中にかけて多いことが報告されております。
早朝高血圧は2つのタイプに分類されます。
① Surge type:朝方急激に血圧が上昇するタイプ
② Nocturnal hypertension type:夜間の血圧が高く、そのまま朝まで高いタイプ
高血圧の治療目標の一つは朝の血圧をいかにコントロールするかがポイントです。
・塩分摂取が多くないか?
・睡眠時無呼吸症候群が存在しないか?
・糖尿病、慢性腎臓病、心不全などが存在しないか?
・アルコール摂取が過剰でないか?
・不眠症がないか?
・起床後すぐに喫煙をしていないか?
・寒い部屋で眠っていないか?
などなど要因を挙げ始めればきりがありません。
高血圧の治療は降圧薬をパッと処方するだけではなく、このような要因の存在や背景にある生活習慣を考え、きめ細やかに投薬調整を行うことが重要となります。
血圧治療で何か不安なことがございましたらいつでもお気軽にご相談ください。お待ちしております。
心腎貧血症候群WEBセミナー ~今見直される鉄欠乏の重要性~
今回は前回でも予告いたしましたように、鉄欠乏の重要性についてお話をしたいと思います。
11月1日に心腎貧血症候群WEBセミナーで鉄欠乏の重要性について講演をさせて頂きました。
生体内に存在する金属元素のうち最も多く存在するのが鉄です。
鉄は体内に約3g存在すると言われていますが、その6割は血液中のヘモグロビンの構成成分となり酸素運搬という重要な役割を果たしています。
鉄欠乏には2種類存在します。
① 絶対的鉄欠乏
② 機能的鉄欠乏
鉄欠乏を評価する上で重要な項目も2つ。
1)トランスフェリン飽和度(TSAT):血清鉄/総鉄結合能(TIBC)×100(%)
:血液を産生するために働くことのできる鉄の実働部隊と考えられます。
お金で例えるとすぐに使えるようにお財布に入っているお金と考えると良いでしょう。
2)血清フェリチン値
:肝臓などの網内系に蓄積している鉄の貯蔵量を反映しています。
お金で例えると銀行に貯金しているお金と考えると良いでしょう。
それでは2種類の鉄欠乏について
① 絶対的鉄欠乏
消化管出血などによる喪失や鉄摂取不足、吸収不良により体内の鉄絶対量が不足している状態を絶対的鉄欠乏と呼びます。
TSATは20%未満、血清フェリチン値は12-15μg/L未満、 炎症を伴っている患者で50μg/L未満(もしくはそれ以上)で鉄欠乏の診断基準と設定しています。
しかし慢性腎臓病や心不全は慢性炎症状態と考えられるため
血清フェリチン値<100μg/L, 血清フェリチン値100~300μg/Lの時はTSAT<20%で鉄欠乏と判断し鉄補充療法を検討することが推奨されています。
② 機能性鉄欠乏
急性・慢性炎症、感染症、悪性腫瘍などの病態では炎症性サイトカイン産生を介して肝臓でのヘプシジン合成が促進されます。ヘプシジンは腸管における鉄吸収や網内系細胞からの鉄放出を抑制する作用を有するため、上記の病態では鉄は網内系細胞内にとどまり鉄利用能が低下します。
そのため血清フェリチン値は増加し、実働部隊であるTSATは低値を示すことになります。
このような病態では体内における鉄の絶対量は充足しているため鉄補充は推奨されません。
以上のように鉄欠乏の評価、鑑別にはTSATと血清フェリチン値の両指標を必ず評価する必要があります。
慢性腎臓病、心不全には鉄欠乏の合併が多いことが知られています。
また鉄欠乏と言えば鉄欠乏性貧血が有名ですが、貧血を呈していなくとも鉄欠乏が存在するだけで運動耐容能の低下や心不全の再入院率の増加をきたすことが知られています。
以上のように心不全に高率に合併する鉄欠乏を見逃すことなく診断、必要があれば鉄補充療法を検討する事が必要であり、鉄欠乏の心不全に対する鉄補充療法の有効性も下記に示すように報告されています。
鉄欠乏性貧血の治療はまず原因の精査とTSAT、血清フェリチン値の評価。
その後はまずは経口鉄剤から治療を開始。
経口鉄剤を開始すると便が黒くなります。また副作用として胃腸症状をきたすことがあることをしっかりと説明しておくことが重要です。
鉄剤には二価鉄を用いた製剤と三価鉄を用いた製剤があります。
吸収は二価鉄の方が良好と言われていますが、消化器症状は三価鉄の方が少ないため、鉄剤開始後吐き気などを認める時は三価鉄製剤の使用を検討するといいかもしれません。
(第一鉄→二価鉄、第二鉄→三価鉄)
以上鉄に関してお話をさせて頂きました。
体内に3gしか存在しない鉄がこれだけ重要な働きをしていることに正直驚かされます。
普段からバランスのとれた食事をすることも重要ですが、健診で貧血を指摘された方や、慢性腎臓病、心不全、その他疾患をお持ちの方で不安をお持ちの方は是非お気軽にご相談ください。