院長より
「実臨床における心房細動の診療 ~新たなエビデンスから考えるハイリスク患者への抗凝固療法~」 Vol.1
院長の山嵜です。
1月2月は大変バタバタしており久しぶりのブログ更新となりました。
1月18日の出来事になりますが、聖マリアンナ医科大学 循環器内科病院教授 原田智雄先生に座長をお勤め頂き、
「実臨床における心房細動の診療 ~新たなエビデンスから考えるハイリスク患者への抗凝固療法~」というテーマで講演をさせて頂きました。
心房細動治療の3本柱は
・抗凝固療法
・洞調律維持
・心拍コントロール
になります。
当院でも行っているようにアブレーション治療の進歩により、高齢の心房細動患者様においても安全な治療と良好な成績をお届けすることが出来るようになりました。
心房細動アブレーションは生命予後を改善させることが出来るのか?
そんな疑問を検証するために126施設で行われたrandomized torialがCABANA trialです。(JAMA. 2019;321(13):1261-1274)
アブレーション群と薬物治療群に無作為割り付けを行い「死亡、脳梗塞、重度の出血、心停止の複合アウトカム」を主要評価項目としています。
主要評価項目発生率の結果ですが、アブレーション群で14%リスク低下を認めたものの、有意差は見られませんでした。
この試験のリミテーションとしてアブレーション群1108例中102例は実際にはアブレーションを受けなかった、そして薬物療法群の約3割301例は結局アブレーションを受けたという、多くのクロスオーバーが存在する試験であるという事実があります。
そこでアブレーション群の中で実際にアブレーションを行った群と全薬物療法群とを比較してみたところ、アブレーション施行群では27%のリスク低下という有意な予後改善効果が認められました。
全薬物療法群からアブレーションを施行した症例を省くとさらに差は開くのだろうという事が予想されますので、どうやらアブレーションは予後の改善に貢献できそうだという事になります。
ではその再発率はどうでしょうか?
それを検討するためにCABANA試験に参加した症例のうち1240例を5年間長時間心電図で評価した報告があります。
(J Am Coll Cardiol. 2020 75(25): 3105-18)
30秒以上持続する心房性頻拍を再発と定義しています。はじめの1年は1か月ごとに、その後は半年ごとに長時間心電図を96時間装着して評価した結果です。
5年再発率は薬物療法群で70.8%、アブレーション群で52.1%とアブレーション群で48%の再発リスク低下を認めておりますが、それでも約半数では再発を認めているという結果が明らかとなりました。
再発例には無症候性心房細動も多く認めるため、やはりアブレーション治療が優れた治療であっても抗凝固療法は欠かせない治療になってくることがお分かりいただけるかと思います。
次回は講演でお話しした内容の中から「抗凝固療法の実際」についてお届けいたします。
ケアネットライブで「高尿酸血症」の講演を行います
本日20:00から医療情報サイト ケアネットの「ケアネットライブ」で講演を行います。
テーマは「ガイドラインから学ぶ 高尿酸血症・痛風診療のポイント」で以下の内容でお届けします。
・尿酸ははたして体にとって善なのか悪なのか?
・心血管リスクとしての高尿酸血症
・高尿酸血症の新しい病型分類
・病型分類を考慮した治療戦略
お時間ございましたら是非ご聴講ください!!
https://live.carenet.com/detail/view/40
災害時「診療中」旗の掲示訓練を行いました
院長の山嵜です。
横浜市では震度6弱以上の震災が発生した際に、診療が可能なクリニックで「診療中」という黄色い旗を掲示することになっています。
青葉区では医師会、歯科医師会、薬剤師会と協力し、大震災のあった日に合わせて年に3回掲示訓練を行います。
1995年1月17日は阪神淡路大震災でした。
阪神淡路大震災は都市直下型大地震で、建物の損壊が非常に激しく、近畿圏全域が甚大な被害を受けました。
当時大学生だった私も衝撃を受けたのを今でも覚えています。
今後起こりうる震災に備えて今できること、ご自宅の備蓄品や避難所までの経路、ご家族間での連絡手段など是非今のうちにご確認頂きたいと思います。
そして黄色い旗は災害時でも診療を行っているクリニックなのだという事も覚えて置いて頂けましたら幸いです。
STOP!! CKD 心腎貧血症候群を考える
今年最後の講演は
STOP!! CKDということで「心腎貧血症候群を考える ~循環器におけるCKD管理の重要性~」をテーマにお話をさせて頂きました。
心血管疾患と慢性腎臓病は非常に関連が強く、それぞれがもう一方の疾患の発症や増悪のリスク因子となることから、両者の関係は「心腎連関」として知られています。
心不全と慢性腎臓病の悪循環のループには様々な因子が存在しますが、両者をつなぐキーとなっているのが貧血です。
そこで心腎連関にこの貧血を加えた3者の関係を「心腎貧血症候群」と呼んでいます。
病態が複雑な心不全、そして慢性腎臓病に対して、比較的治療介入しやすい貧血を改善することで各疾患の悪循環を断ち切ろうという事から、貧血には注目が集まっていると考えられます。
心不全退院後患者を対象としたJCARE-CARD試験(Circ J 2009; 73: 1901–1908)でもヘモグロビン値 男性<13.0、女性<12.0g/dlを貧血と定義した際、心不全患者の57%に貧血が存在することが明らかとなりました。
また、ヘモグロビン値により4群に分類した際、ヘモグロビンが低値になるほど全死亡と心不全入院の発生率が増加することが示されています。
同様にRENAAL試験のサブ解析(Kidney International, Vol. 66 (2004), pp. 1131–1138)でも慢性腎臓病患者をヘモグロビン値で4群に分類した際に、ヘモグロビン値が低値の群ほど末期腎不全への進展が高率である事が示されました。
つまり貧血の存在は心不全、慢性腎臓病の増悪因子である事が明らかにされているわけです。
慢性腎臓病における貧血というとエリスロポエチンが不足することにより発症する「腎性貧血」が頭に浮かびますが、実は鉄欠乏性貧血の罹患率も高く、血液検査から診断した3つの試験から15~28.4%存在することが知られています(Am J Kidney Dis. 2010; 55: 719-723, J Nephrol 2006; 19: 161-167, Nephrology 2015; 20: 601-608)。
慢性腎臓病患者の貧血に対する治療フローチャートをお示しします(山嵜 作図)。
まずは重要なのは鉄動態の評価です。
❶ TSAT(%):血清鉄/総鉄結合能(TIBC)×100 → 血液中の鉄を評価
❷ フェリチン → 貯蔵鉄を評価
〇 TSAT<20%、フェリチン<100μg/L → 絶対的鉄欠乏
〇 TSAT<20%、フェリチン>100μg/L → 相対的鉄欠乏
絶対的鉄欠乏の際は、鉄補充の開始基準となります。
一方相対的鉄欠乏の際は、鉄利用障害が存在する可能性があるため、背景に感染や慢性炎症が存在しないか精査が必要です。腎性貧血の際にも鉄利用障害のパターンを呈しますので、明らかな原因が存在しない時にはESAやHIF-PH阻害薬の投与が必要となります。
腎性貧血につきましてはまた改めましてブログで書かせて頂きたいと思います。
今年も一年間たちばな台クリニックを支えて頂きましてありがとうございました。
新型コロナウイルスも再流行の兆しを見せ始めており、まだまだ辛抱の日が続くことになりそうですが、皆様の身体と心の祈念しております。
それではどうぞ良いお年をお迎えください。
来年も何卒よろしくお願い申し上げます。
ARNI National Symposium 心不全超早期ステージにおけるエンレストの可能性
院長の山嵜です。
少し前になりますが10月28日のARNI National Symposiumで講演をさせて頂きました。
今回のテーマは「心不全超早期ステージにおけるエンレストの可能性」です。
心不全は
ステージA:高血圧や糖尿病などの心不全のリスクとなる疾患を有するリスクステージ
ステージB:器質的心疾患を有するリスクステージ
ステージC:症状を有する心不全もしくは心不全の既往を有する心不全ステージ
ステージD:治療抵抗性の重症心不全ステージ
の4ステージに分類されます。
心不全のリスクステージ別生存率ではステージBとCの間で生命予後に大きな差があり、心不全を発症する以前に介入をすることが非常に重要であることが示唆されます。
高血圧症は最も罹患患者の多い疾患であり、心不全のリスク因子であることが知られています。
また高血圧患者に降圧療法を行った48の臨床試験のメタ解析では、収縮期血圧を5mmHg低下させると心不全の発症を13%減少させることが出来ることが報告されています(Lancet 2021; 397: 1625–36)。
2021年9月より心不全治療薬であるARNI サクビトリルバルサルタン(エンレストⓇ)が「高血圧症」の適応を取得しました。
こちらはサクビトリルバルサルタンの国内第Ⅲ相臨床試験で、ARBであるオルメサルタン20mgとサクビトリルバルサルタン400mg投与患者における24時間収縮期血圧の推移を表したグラフです。
オルメサルタン群に比べてサクビトリルバルサルタンでは日中活動時の血圧および夜間血圧を良好に低下させることが出来ています。
日中血圧の低下は交感神経活動の抑制、夜間血圧の低下はナトリウム利尿に伴うサクビトリルバルサルタンの効果ではないかと考えております。
またサクビトリルバルサルタンではオルメサルタンに比べて左室心筋重量係数を有意に低下させました。
高血圧患者における左室肥大の存在は心不全発症のリスク因子であり、治療による左室肥大の退縮は心血管イベントの発生を減少させることが知られています。
以上より高血圧に対する超早期ステージからの適切な治療介入は心不全発症を抑制し、患者様の予後を改善させる可能性があり、確実な降圧効果と左室肥大抑制効果を有するサクビトリルバルサルタンには大きな期待が持てるのではないかと考えております。
日々寒くなり血圧も上昇しやすい時期ですが、高血圧が気になる方、また降圧薬を内服しているがなかなか十分なコントロールが得られない方はいつでも当院までお気軽にご相談下さい。
慢性腎臓病に対する新たなアプローチ
院長の山嵜です。
昨日在宅診療の先生方を対象に「慢性腎臓病に対する新たなアプローチ」というテーマで講演をさせて頂きました。
慢性腎臓病(CKD)は我が国に1330万人存在すると言われている国民病で、高齢化に伴いさらに増加することが予想されます。
CKDは進行すれば末期腎不全として透析導入となりますが、それ以外にも心血管疾患の大きなリスク因子と考えられています。そのため早期からCKDに介入し透析導入や心血管疾患の発症を予防することが大切となります。
糸球体高血圧とそれに伴う過剰濾過は腎機能障害の重要な機序の一つです。
高血圧や、高蛋白食、輸入細動脈の拡張と輸出細動脈の収縮は糸球体高血圧の原因となります。
レニンアンジオテンシンアルドステロン系の亢進はアンジオテンシンⅡを介して輸出細動脈の収縮を招き、糸球体高血圧を惹起します。
そのためACE阻害薬やARBなどのRAAS阻害薬は輸出細動脈を拡張させることで糸球体高血圧を改善させ、腎機能を保護することになります。
2001年にロサルタンが糖尿病性腎症を伴う2型糖尿病に対して腎保護作用を有することがRENAAL studyで示されました。
それから20年、SGLT2阻害薬であるダパグリフロジンが慢性腎臓病の進展を抑制する効果を有する薬剤として使用可能となりました。
尿中アルブミンを認めるCKD患者に対するダパグリフロジンの安全性と有効性を評価した第三相臨床試験「DAPA-CKD」ではGFRの低下、末期腎不全への進展、心血管死、腎臓死の主要複合エンドポイントをプラセボに比べて有意に減少させることが証明されました。
SGLT2阻害薬の腎臓に対する保護効果の機序として「尿細管糸球体フィードバック機構の改善」が考えられています。
近位尿細管に存在するNa/GluトランスポーターであるSGLT2を阻害することによりナトリウムとグルコースの再吸収を抑制。ナトリウムが遠位尿細管に十分到達することでマクラデンサではNaCl濃度を感知し、拡張していた輸入細動脈を収縮。その結果糸球体高血圧が改善し、長期的に腎機能を保護することになります。
高齢化に伴うさらに増加することが予測されるCKD。
SGLT2阻害薬という新たな機序の腎保護薬が登場したことにより、腎機能障害の管理は新たなステージに入ったと言えるかもしれません。