横浜市青葉区 循環器内科 小児科 皮膚科 禁煙外来 睡眠時無呼吸症候群 地域医療を支えるクリニックです

MENU

たちばな台日記 〜スタッフブログ〜

糖尿病と心不全治療を考える会

院長の山嵜です。

 

本日は糖尿病と心不全治療を考える会で座長を務めさせて頂きました。

 

本日の講演は演者に北里大学医学部 循環器内科学 教授 阿古 潤哉先生をお招きして

「糖尿病と心不全 ~新たな治療エビデンス~」をテーマにご講演を賜りました。

 

 

 

 

安定冠動脈疾患合併心房細動患者に対する抗血栓療法の検討を行ったAFIRE試験(N Engl J Med 2019; 381: 1103-1113)では、対象患者の約40%が糖尿病を合併しているというデータからも示されますように、循環器と糖尿病の間には深い関係が存在します。

 

糖尿病患者では動脈硬化の進行を背景に虚血性心疾患や下肢PADなどが発症する事は周知の事実ですが、実は30%では心不全が初発のイベントであることが近年の報告で明らかになりました。

 

 

このように糖尿病と心不全にも強い関連があり、心不全入院を含めた心血管イベントを抑制できる糖尿病治療薬が心不全パンデミックを迎えているわが国で重要になってくることは間違いがありません。

 

DPP4阻害薬の登場には誰もがその心血管イベント抑制効果に期待をしました。しかし多くの臨床試験が行われましたが、残念ながら虚血性心疾患および心不全のイベント発生率を低下させるエビデンスは現れていません。

 

一方同じインクレチン関連薬であるGLP-1アナログはメタ解析でもMACEや心血管死の発生リスクを有意に低下させるという結果を示しています(

Lancet diabetes Endocrinol 2018 6 105)。

 

そして本日の講演の主役でもありますSGLT2阻害薬ですが、近年非常に多くのエビデンスが蓄積されています。

EMPA-REG OUTCOME、CANVAS program、DECLARE-TIMI 58と心血管イベント高リスクの糖尿病患者に対してSGLT2阻害薬を使用した試験では全ての試験において心血管イベントの抑制と腎障害振興の抑制が見られるという驚くべき結果となりました。

 

中でも心不全による入院のイベント抑制効果は非常に強く、その後SGLT2阻害薬は心不全にも有効なのではないかと考えられHFrEF患者を対象としたEMPEROR-reduced、DAPA-HF試験が行われました。両試験においても圧倒的なイベント抑制効果を示したSGLT2阻害薬は現在HFrEFに対する適応承認を受け、心不全治療においてβ遮断薬、MRA、ARNIと並んで4本柱の一つに位置する事となりました。

 

SGLT2阻害薬のどのような効果が心不全に有効なのか?

SGLT2阻害薬には非常に多くの作用が存在しますが、その中で何が最も心不全に有効なのか、それは現時点では明らかにされていません。

 

DAPA-HFのサブ解析で糖尿病群と非糖尿病群を比較した検討がありますが、利尿効果や体重減少は心不全のイベント抑制と関与は少ないと考えられています(NEJM 2019 381(21) 1995)。

 

その中で両群で改善していたパラメーターがヘマトクリットでした。SGLT2は造血の上流に関与する事で貧血を改善させることが知られています。この貧血改善効果も心不全発症の予防効果を有するかもしれませんが、まだまだその奥は深そうであり、今後のデータの蓄積が楽しみな所です。

 

本日は阿古先生から多岐にわたる内容のご講演を聴講することが出来大変勉強になりました。

 

最後には聴講の先生方にも投票システムを用いて参加して頂き、その内容につき阿古先生と私でディスカッションをさせて頂きました。

 

 

心不全は高齢化に伴い2030年には130万人まで増加する事が推測されています。

健康寿命を延ばすための重要な疾患の一つである心不全。多くのエビデンスを有する薬剤が続々と登場している今、患者様一人一人に適した心不全治療を行っていく事が私たちの務めかもしれません。

;