院長より
日本循環器学会学術集会に参加してきました。
第87回日本循環器学会学術集会が福岡で開催されました。
久しぶりの現地開催で約15,000人の医療従事者が参加するという大きな学会となりました。
今回は高血圧のセッションにおきまして
「Efficacy of Sacubitril/Valsartan in Patients with Poorly Controlled Hypertension」
という演題で発表をさせて頂きました。
現地開催という事でたくさんの先生方と顔をあわせてのディスカッションをすることが出来、大変有意義な学会となりました。
学んだ最新の知識を日々の診療でしっかりと生かしより良い治療が行えるよう、今後も精進していきたいと思います。
ARNI 全国WEB講演会でお話をさせて頂きました
1月26日にARNIランチタイムセミナー ~厳格降圧で帰る日本の未来~で講演をさせて頂きました。
テーマは「日本人高血圧を考える ~エンレストがもたらす新たな高血圧治療戦略~」
高血圧は最大の心血管疾患リスク因子である。
2019年に日本高血圧ガイドラインが改訂され75歳未満の診察室血圧は130/80mmHg未満が推奨されております。
しかし降圧治療を行っているにもかかわらずこの目標値を達成できていない方は約7割とも推察されています。
その原因となるのは?
それを改善するための治療戦略は?
などについてお話をさせて頂きました。
2月14日まではオンデマンドで配信しておりますので、是非ご覧いただければと思います。
https://quick-watch.jp/minerva/web_ondemand/O00847.html
元石川小学校防災訓練
院長の山嵜です。
昨日3年ぶりにトリアージ訓練を含んだ防災訓練が元石川小学校で開催されました。
青葉区には41の防災拠点が存在します。
うち12ヶ所には定点診療拠点という医療従事者が出動し傷病者のトリアージや診療を行う医療拠点が併設されます。
今回も自治会の皆様を中心に、青葉区医師会、歯科医師会、薬剤師会、柔道整復師会、Yナース、アマチュア無線協力会などたくさんの皆様にご参加を頂き久しぶりに本格的な防災訓練となりました。
・開催前に図書室でミーティング
・山本医師会長から説明
・自治会の方に傷病者役を演じてもらってのトリアージ訓練
・青葉区役所医療調整班とのMCA無線訓練
やはり現場での訓練でなければ気付くことのできなかった問題点も多数見つかり、最後の反省会では非常に多くの意見が飛び交ったことからも、今回の防災訓練が非常に大きな意味があったことをうかがうことが出来ました。
本訓練を皮切りに、本当の震災が起こる前に他の11拠点でも有意義な防災訓練を行うことが出来ればと考えております。
お近くの拠点で行われる際には是非ご協力をお願い申し上げます。
Yokohama Brain Conference
院長の山嵜です。
最強寒波の極寒の中皆様いかがお過ごしでしょうか。
本日は12月15日脳神経外科の先生を対象に開催されましたYokohama Brain Conferenceについてお話をさせて頂きたいと思います。
こちらの会では大変お世話になっております横濱もえぎ野クリニックの泉山先生にお声掛けを頂き
「高血圧診療Update ~ARNIがもたらす新たな高血圧治療戦略~」
というテーマで講演をさせて頂きました。
「高血圧は脳卒中および心血管イベントの最大のリスク因子である。」
これがkey wordになります。
下の図は日本においてどのようなリスク因子が脳心血管死に関与しているのかを表したグラフになりますが、圧倒的に高血圧の関与が強く、高血圧関連脳心血管死は年間約10万人におよぶと考えられております。
ではどの程度に血圧をコントロールすれば脳卒中イベントは減少するのか?
高齢であれば血圧は高くても良いのではと考えられていた時代もございましたが、現在は75歳未満の方や高度狭窄を有さない脳血管疾患の方、冠動脈疾患の既往のある方、糖尿病の方、蛋白尿を有する慢性腎臓病の方では診察室血圧を120台にコントロールする事が高血圧ガイドライン2019でも推奨されております。
下は血圧を130を目標に治療をした方と、140を目標に治療を行った方の脳卒中イベントを評価したメタ解析になりますが、130を目標に厳格に高血圧の治療を行った群で22%脳卒中の発症リスクが低下する事が示されております。
血圧には日内変動があり、早朝高血圧が心血管イベントのリスク因子であることが知られています。
脳卒中発症にも日内変動があり、下記の2つの試験結果からも脳卒中の発症は朝から午前中にかけて多いことが報告されております。
早朝高血圧は2つのタイプに分類されます。
① Surge type:朝方急激に血圧が上昇するタイプ
② Nocturnal hypertension type:夜間の血圧が高く、そのまま朝まで高いタイプ
高血圧の治療目標の一つは朝の血圧をいかにコントロールするかがポイントです。
・塩分摂取が多くないか?
・睡眠時無呼吸症候群が存在しないか?
・糖尿病、慢性腎臓病、心不全などが存在しないか?
・アルコール摂取が過剰でないか?
・不眠症がないか?
・起床後すぐに喫煙をしていないか?
・寒い部屋で眠っていないか?
などなど要因を挙げ始めればきりがありません。
高血圧の治療は降圧薬をパッと処方するだけではなく、このような要因の存在や背景にある生活習慣を考え、きめ細やかに投薬調整を行うことが重要となります。
血圧治療で何か不安なことがございましたらいつでもお気軽にご相談ください。お待ちしております。
心腎貧血症候群WEBセミナー ~今見直される鉄欠乏の重要性~
今回は前回でも予告いたしましたように、鉄欠乏の重要性についてお話をしたいと思います。
11月1日に心腎貧血症候群WEBセミナーで鉄欠乏の重要性について講演をさせて頂きました。
生体内に存在する金属元素のうち最も多く存在するのが鉄です。
鉄は体内に約3g存在すると言われていますが、その6割は血液中のヘモグロビンの構成成分となり酸素運搬という重要な役割を果たしています。
鉄欠乏には2種類存在します。
① 絶対的鉄欠乏
② 機能的鉄欠乏
鉄欠乏を評価する上で重要な項目も2つ。
1)トランスフェリン飽和度(TSAT):血清鉄/総鉄結合能(TIBC)×100(%)
:血液を産生するために働くことのできる鉄の実働部隊と考えられます。
お金で例えるとすぐに使えるようにお財布に入っているお金と考えると良いでしょう。
2)血清フェリチン値
:肝臓などの網内系に蓄積している鉄の貯蔵量を反映しています。
お金で例えると銀行に貯金しているお金と考えると良いでしょう。
それでは2種類の鉄欠乏について
① 絶対的鉄欠乏
消化管出血などによる喪失や鉄摂取不足、吸収不良により体内の鉄絶対量が不足している状態を絶対的鉄欠乏と呼びます。
TSATは20%未満、血清フェリチン値は12-15μg/L未満、 炎症を伴っている患者で50μg/L未満(もしくはそれ以上)で鉄欠乏の診断基準と設定しています。
しかし慢性腎臓病や心不全は慢性炎症状態と考えられるため
血清フェリチン値<100μg/L, 血清フェリチン値100~300μg/Lの時はTSAT<20%で鉄欠乏と判断し鉄補充療法を検討することが推奨されています。
② 機能性鉄欠乏
急性・慢性炎症、感染症、悪性腫瘍などの病態では炎症性サイトカイン産生を介して肝臓でのヘプシジン合成が促進されます。ヘプシジンは腸管における鉄吸収や網内系細胞からの鉄放出を抑制する作用を有するため、上記の病態では鉄は網内系細胞内にとどまり鉄利用能が低下します。
そのため血清フェリチン値は増加し、実働部隊であるTSATは低値を示すことになります。
このような病態では体内における鉄の絶対量は充足しているため鉄補充は推奨されません。
以上のように鉄欠乏の評価、鑑別にはTSATと血清フェリチン値の両指標を必ず評価する必要があります。
慢性腎臓病、心不全には鉄欠乏の合併が多いことが知られています。
また鉄欠乏と言えば鉄欠乏性貧血が有名ですが、貧血を呈していなくとも鉄欠乏が存在するだけで運動耐容能の低下や心不全の再入院率の増加をきたすことが知られています。
以上のように心不全に高率に合併する鉄欠乏を見逃すことなく診断、必要があれば鉄補充療法を検討する事が必要であり、鉄欠乏の心不全に対する鉄補充療法の有効性も下記に示すように報告されています。
鉄欠乏性貧血の治療はまず原因の精査とTSAT、血清フェリチン値の評価。
その後はまずは経口鉄剤から治療を開始。
経口鉄剤を開始すると便が黒くなります。また副作用として胃腸症状をきたすことがあることをしっかりと説明しておくことが重要です。
鉄剤には二価鉄を用いた製剤と三価鉄を用いた製剤があります。
吸収は二価鉄の方が良好と言われていますが、消化器症状は三価鉄の方が少ないため、鉄剤開始後吐き気などを認める時は三価鉄製剤の使用を検討するといいかもしれません。
(第一鉄→二価鉄、第二鉄→三価鉄)
以上鉄に関してお話をさせて頂きました。
体内に3gしか存在しない鉄がこれだけ重要な働きをしていることに正直驚かされます。
普段からバランスのとれた食事をすることも重要ですが、健診で貧血を指摘された方や、慢性腎臓病、心不全、その他疾患をお持ちの方で不安をお持ちの方は是非お気軽にご相談ください。
ケアネットWEB講演会 ~かかりつけ医による腎性貧血治療~
本日は2022年11月29日にケアネットWEB講演会でお話をさせて頂きました内容についてご報告をしたいと思います。
今回のテーマ
「かかりつけ医による腎性貧血治療 ~心腎貧血症候群から読み解く貧血治療の重要性~」
心疾患と慢性腎臓病の間には深い関係が存在します。
心不全では心拍出量の低下や腎潅流量の低下、レニンアンジオテンシンアルドステロン系亢進や交感神経活動の亢進、慢性炎症や吸収不良に伴う貧血などを介して慢性腎臓病を増悪させます。
一方慢性腎臓病ではナトリウム貯留や水貯留によるうっ血や高血圧、エリスロポエチン低下に伴う貧血を介して心不全を増悪させます。
このような心疾患と慢性腎臓病の関係を「心腎連関」と呼んでいますが、心不全と慢性腎臓病両疾患に深く関与する病態が貧血です。
貧血が存在する事で心不全と慢性腎臓病の悪循環が成立してしまう事から、この3つが同時に存在する病態は「心腎貧血症候群 CRAS」と呼ばれています。
CRASが存在すると予後が不良なことは多く報告されており、慢性腎臓病や貧血を有さない心不全患者に比べ、CRASでは全死亡の発生が有意に高いことが知られています(ハザード比:2.0)。
心不全・慢性腎臓病・貧血の中で比較的治療介入を行いやすいことから、近年貧血治療が注目されるようになりました。
消化管出血を含む原因疾患の鑑別が最も重要になりますが、治療介入において重要な二つの病態が
① 鉄欠乏
② 腎性貧血
です。
鉄欠乏に関しましては別の講演会でも詳しくお話をさせて頂きましたので、後日改めてブログに書かせて頂こうと思いますが、一文にまとめさせて頂きますと・・・
「鉄欠乏は心不全や慢性腎臓病に高率に合併し、息切れや心不全の予後に大きく影響するため、トランスフェリン飽和度 20%未満では鉄補充療法を検討するべきである」
という事になるかと思います。
そして次のステップと致しまして、慢性腎臓病患者で鉄補充を行っても貧血が残存し、エリスロポエチン濃度が50mlU/mLで網状赤血球の増加が見られない場合には腎性貧血を疑う必要があります。
ではヘモグロビンがどのレベルになったら治療介入を検討するべきか。
現ガイドラインでは下記のように推奨されています。
そして腎性貧血治療には「ESA製剤」と「HIF-PH阻害薬」があり、患者様の病態、生活習慣、嗜好などにより選択する事になります。
これまでも使用しており注射に慣れている、内服薬をこれ以上増やしたくない方であればESA製剤を、
注射には抵抗がある、通院する機会をなるべく減らしたい方であればHIF-PH阻害薬を
選択するメリットがあるかと思います。
またESA製剤を使用しているがなかなか貧血の改善が見られず、ESA製剤の用量が非常に多くなってしまっているような「ESA抵抗性」を示す方ではHIF-PH阻害薬に変更してみるのも手かもしれません。
ESA製剤の用量が多い方では心血管リスクが高いという報告もあり注意が必要です。
ESA抵抗性の最大の要因は鉄欠乏です。ESAを投与しても血液の素材が不足していれば貧血は改善しません。
そしてもう一つkeyとなるのが「ヘプシジン」という鉄調節因子の存在です。
ヘプシジンは体内に鉄が過剰になった時に肝臓で生成され、腸管や網内系細胞の鉄輸送蛋白であるフェロポルチンに結合することで、消化管からの鉄吸収や網内系細胞からの鉄放出を抑制する働きを有しています。
慢性腎臓病は慢性炎症の病態を有しておりますが、増加した炎症性サイトカインはヘプシジンを増加させ、また腎機能障害下ではヘプシジンの排泄も低下するためヘプシジン濃度が上昇します。ヘプシジンが増加した状態では鉄利用能が低下してしまうためESA抵抗性が惹起されるということになるわけです。
HIF-PH阻害薬がヘプシジン濃度を低下させ、鉄利用を改善させるという臨床データがいくつか示されており、日本腎臓学会からも「ESA抵抗性の原因が不明若しくは対応が困難な場合(鉄利用障害など)には、HIF-PH阻害薬への変更を考慮しても良い」というrecommendationが発表されています。
貧血による息切れや心不全・慢性腎臓病増悪をかかりつけ医が見逃さないことが患者様にとって大きなメリットになることは間違いありません。
内服薬による腎性貧血治療という選択肢を手に入れたことにより、新たな貧血治療の時代が訪れたと言っても過言ではないでしょう。